発表スライドから抄録を作る。院内マニュアルを参照できる仕組みを作る。
海外からの看護師の来訪に合わせて、翻訳アプリを作る。
今回の定例会で紹介されたのは、こうした具体的な仕事にAIを取り入れた実践でした。
ChatGPTやGeminiで文章や図を作成するだけでなく、ClaudeやCodexを使って、必要な道具を自分たちで形にする取り組みも始まっています。
「医療現場で生成AIを使いたいけれど、何に使えるのか分からない」。
そう感じている方にとって、他の医療者がどの仕事で、どのように使っているかは、自分の業務を見直す手がかりになります。
2026年7月29日に開催した日本アフェレシス学会AI利活用勉強会(以下、AIUS)第4回定例会では、こうした活用事例に加え、アフェレシス標準化アプリの試用やレジストリ入力の自動化に向けた進捗を共有しました。
個人の仕事に役立てる工夫と、複数の人が使う仕組みを育てる活動。その両方から、医療におけるAI活用の現在地を紹介します。
参加者:
今村 洋介 先生(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター)
内山 陽介 先生(済生会横浜市東部病院)
王子 聡 先生(埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科)
片桐 大輔 先生(国立国際医療研究センター)
草生 真規雄 先生(順天堂大学)
斯波 真理子 先生(大阪医科薬科大学 循環器センター)
鯰田 健一朗 様(旭化成メディカル)*オブザーバー
西山 悠登 先生(国立国際医療研究センター)
福永 昇平 先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)
村田 悠典 様(株式会社MU(ミュウ))
以上 10名(五十音順)

ChatGPT・Geminiで発表準備――スライドから抄録を作るという使い方
発表内容は整理できていても、そこから同じ内容でスライドを作成する、抄録を作成するなど、フォーマットごとにまとめ直す作業は残ります。
今回紹介されたChatGPTとGeminiの活用は、こうした発表準備の工程に着目したものでした。
委員から報告された用途は、発表スライドの作成補助と、スライドをもとにした抄録作成です。
スライド資料には大抵箇条書きや図が含まれていますが、抄録は文章だけ構成されているため、同じ内容を扱っていてもそのまま移せば完成するわけではありません。
その情報の順序やつながりを考えながら書き直す工程にAIを活用した事例についてご報告がありました。
報告した委員からは、作図ではGeminiを得意との実感も共有されました。
「発表の準備」という単位では思うような成果物の生成が難しくとも、すでに整理した内容を文章にする、図を作る、などと作業か細分化して指示することを意識するだけで、単純な作業もぐっと容易にすることができます。
院内マニュアルを活かす――Claude・Codexで「参照する仕組み」を作る
必要な情報が文書の中にあることと、必要なときにその情報へたどり着けることは、別の課題です。
院内マニュアルを扱う今回の事例は、この違いに目を向けるものでした。
委員からは、院内マニュアルや文書をデータ化し、ClaudeやCodexでコードを作成して、内容を参照できるようにしている取り組みが紹介されました。
資料をただクラウドにアップロードしたりデータ化しただけでは、そのデータから目的の内容にたどり着くまでに調べる時間がかかります。
どの文書を対象にし、何を参照したいのか。
使う場面から考えることで、必要な機能の輪郭が見えてきます。
今回の事例は、身近な文書を出発点として、業務に合う道具を考える可能性を示しています。
例えば、読者が同じ方向の取り組みを考える際には、「院内のあらゆる情報を扱う」という大きな構想より、繰り返し参照している文書と、その利用場面を書き出すところから考えられます。
日常的に使う文書だからこそ、利用する側には、何を参照したいかという具体的な目的があります。
その目的とAIの開発支援が結びつくところに、この事例の面白さがあります。
海外との交流でAI翻訳を試す――来訪対応から講演準備・聴講まで
海外から来訪者を迎える場面と、自分が海外で講演する場面。
どちらにも言葉のやり取りがありますが、準備する内容や、その場で必要になる支援は異なります。
今回の定例会では、タイから看護師が来訪した際に、ChatGPT Codexで翻訳アプリを作成し、リアルタイム翻訳のAPIを試した経験が紹介されました。
また、タイでの講演準備や、現地講演の聴講・翻訳にも、ChatGPTのライブ機能を活用したことが報告されました。
院内文書を参照する仕組みと同様に、ここでもコード作成を支援するAIが使われています。
「この場面で、こういう道具を使いたい」という具体的な目的が、アプリ作成へつながっています。
一方、実際の講演や聴講では、既存の機能を使う方法が選ばれていました。
リアルタイムの翻訳速度や翻訳精度などを比較したとのことです。
翻訳という言葉でまとめても、発表前に内容を整えること、相手の話を聞き取ること、その場でやり取りすることは、それぞれ異なる仕事です。
既存サービスの精度の高さを実感しつつも、個人でも欲しい仕様でアプリを作ることができるという、AI活用の選択肢の幅が見えた事例でした。
※今回の紹介は、国際交流や講演の場面での利用経験です。
医療通訳としての精度を評価した結果ではありません。
[進捗報告] アフェレシス標準化アプリ
AIUSで開発中のアフェレシス標準化アプリは、委員を対象としたクローズドテストへ進む方針が示されました。
利用者を限定してアプリを試してもらい、使用感をアンケートで集める取り組みです。
会議では、各委員が試用に協力することを確認しました。
会議時点で対応しているのは、単純血漿交換とSelective PEであり、PA・CAP・PMX・CRRTなどは未対応です。
また、委員からは「作成中の新ガイドラインをアプリへ反映できるか」という質問がありました。
これに対して、ドキュメントやロジックの変更により、大きな工数をかけずに対応できる見通しが示されました。
使用感アンケートは8月末を目安とし、事務局からアプリのURLとフォームを共有することとなりました。
[進捗報告]レジストリ入力の自動化
AI活用の対象として、文章や翻訳と並んで挙げられたのが、アフェレシスレジストリへの入力です。
今回の定例会では、自動入力に向けた検証の準備について報告がありました。
計画されているのは、順天堂大学のREDCapライセンスを用いた、練習用のモック環境の構築です。
実際に試せる模擬環境を整え、その中で検証を進めていきます。
自動入力を考えるときには、入力する速さに加え、意図した内容が意図した場所に入るかという視点も欠かせません。
どの処理を任せられるかを判断するには、動かして確認する過程が必要になります。
AIUSでは、モック環境での検証を含め、この取り組みを継続していくことを確認しました。
医療AIの活用経験を共有する――週次ニュースに「使った人の知見」を
AIUSでは、AIと医療に関するニュースや活用事例を、ホームページで週1回程度発信しています。
今回の会議では、通勤時間に閲覧しているといった感想に加え、自分の活用経験も投稿したいという意向が寄せられました。
新しいツールの発表を知ることと、それを自分の仕事に取り入れることの間には、距離があります。
その間をつなぐのが、実際に使った人の経験です。
スライドから抄録を作った、院内文書を参照する仕組みを作った、海外講演の聴講に使った。
今回のように利用場面が分かると、読者も自分の仕事との接点を探しやすくなります。
会議では、各委員がAI活用事例や工夫を週次ニュースへ提供していくことを確認しました。
発信を続ける仕組みについても意見交換が行われました。
会員向けのNotion上のまとめには、要望を受けて「いいね」ボタンを実装済みです。
今後の展望――自分の仕事から始め、試した経験を次の人へ
今回の事例を通して見えてきたのは、AI活用を考えるときの出発点が、身近な仕事の中にあるということです。
同じ内容を別の資料へ書き直す。文書を参照する。海外の相手とやり取りする。
こうした小さくとも具体的な仕事や困りごとをAIに任せてみる、という思考がとても重要です。
AIUSは今後、標準化アプリの試用・評価、レジストリ自動入力の検証、委員による活用事例の発信を進めていきます。
次回定例会は、今回の開催から約2か月後の9月を予定しています。
ご自身の仕事にも、繰り返し書き直している資料や、何度も参照する文書はないでしょうか。
今回の報告が、AIで支援できる作業を具体的に考えるきっかけになれば幸いです。
AIUSでは、こうした現場の実践と、そこから得られる知見を引き続き発信していきます。
※本記事は第4回定例会議事録に基づく活動報告です。
取り組みの進捗は2026年7月29日時点のもので、事例の意義や読者の業務への応用については編集上の解説を加えています。
- 本記事は、生成AIツールの一般的な利用開始方法と活用の考え方を紹介するものです。各サービスの機能、料金、利用上限、データの取り扱いは変更される可能性があります。最新情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。
- 患者情報、個人情報、機微情報を扱う場合には、所属機関の規程および関連法令・倫理指針に従ってください。


