近年、ChatGPT、Gemini、Claudeなどの生成AIツールが急速に普及し、文章作成、要約、翻訳、情報整理、研究補助など、さまざまな場面で活用されています。
現在では、インターネット環境があれば誰でも比較的容易に利用でき、医療者や研究者にとっても、日常業務や学会活動、論文読解、教育、研究準備を支える身近なツールになりつつあります。
一方で、生成AIの出力は常に正確とは限りません。特に医療情報や論文、薬剤情報などを扱う場合には、必ず一次情報や信頼できる資料で確認する姿勢が重要です。また、患者を特定できる情報や、所属機関の規程に反する内容を入力しないことも求められます。
本ページでは、医療者・研究者が生成AIを安全に使い始めるための入口として、代表的なツールの特徴と基本的な注意点を整理します。
生成AIツールでできること
生成AIツールは、質問に答えるだけのものではありません。
うまく使うことで、日常業務や研究活動の「たたき台」を作る助けになります。
たとえば、以下のような用途があります。
| 用途 | 具体例 |
|---|---|
| 文章作成 | メール、案内文、依頼文、挨拶文、報告書の下書き作成 |
| 文章の整理 | 長い文章の要約、箇条書き化、構成の見直し |
| 翻訳・英文添削 | 英文メール、抄録、発表原稿、国際会議での表現確認 |
| 論文読解の補助 | 抄録や本文の要約、研究デザインの整理、臨床的意義の確認 |
| 会議準備 | アジェンダ作成、議事録整理、決定事項と宿題の抽出 |
| 学会・教育資料作成 | スライド構成案、講演原稿、初学者向け説明文の作成 |
| 情報収集の補助 | 調べるべき論点の整理、ニュースの要約、関連キーワードの抽出 |
| データ整理 | 表の整形、簡単な集計、CSVやExcel形式への変換補助 |
| コーディング支援 | 簡単なアプリ作成、コードの修正、エラーの原因調査 |
ただし、AIは「正解を保証する道具」ではありません。
むしろ、考えを整理する相手、作業の下書きを作る補助者、調べるべき方向を示してくれる道具
として使うのが現実的です。
医療者が最初に意識したい3つの原則
医療者・研究者がAIツールを使う際には、便利さと同時に、情報管理と安全性への配慮が必要です。
まずは以下の3点を意識することが大切だと思われます。

患者さんを特定できる情報は入力しない
氏名、患者ID、生年月日、住所、電話番号、顔写真、診療録そのものなど、患者さんを特定できる情報は原則として入力しないようにします。
症例について相談したい場合でも、「いつ、どこの、誰が」が絶対に特定されないよう、徹底した情報の加工(一般化)を行うなど十分に匿名化し、所属機関のルールに従う必要があります。
AIの出力をそのまま事実として扱わない
AIは「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」をつくことがあります。
回答の中に存在しない論文、誤ったURL、古い情報、不正確な要約が含まれることも多々あります。
特に以下の情報は、必ず確認が必要です。
- 論文情報
- ガイドライン
- 薬剤情報
- 診療報酬
- 法律・制度
- ニュース
- 統計データ
- 公式発表の有無
AIの回答は、最終確認の前段階にある「たたき台」と考えるのが安全です。
所属機関・学会・研究倫理のルールを優先する
個人でAIを試す場合と、業務・研究・教育で利用する場合では、扱うべき情報の範囲、責任の重大性が異なります。
大学、病院、研究機関、学会などに所属している場合は、それぞれの情報管理規程、研究倫理規程、個人情報保護方針を確認したうえで利用する必要があります。
論文投稿や学会発表においても、投稿規程や発表規程を確認することが大切です。
代表的なAIツール
現在、医療者・研究者が比較的利用しやすい代表的なAIツールとして、ChatGPT、Gemini、Claudeがあります。
いずれも無料で試せる範囲がありますが、利用できる機能や回数、使えるモデルは時期によって変わります。
そのため、本ページでは細かな利用上限の数字には踏み込みすぎず、各ツールの特徴を大まかに整理します。
最新の条件は、それぞれの公式ページでご確認ください。

ChatGPT
ChatGPTは、OpenAIが提供する対話型AIツールです。
文章作成、要約、翻訳、情報整理、調査補助、データ解析、画像生成、コード作成など、幅広い用途に利用できます。
初めてAIツールを使う方にとっては、最初の入口として試しやすいサービスの一つです。
ChatGPTが向いている場面
- メールや案内文の下書きを作る
- 長い文章を読みやすく整理する
- 英文を自然に整える
- 講演原稿やスライド構成を考える
- 論文の要点を整理する
- 表やデータを扱う
- 簡単なコードを書く
- アイデア出しや壁打ちをする
ChatGPTの強み
ChatGPTの強みは、汎用性の高さでしょう。
文章、翻訳、要約、調査、表作成、データ整理、プログラミング支援など、さまざまな作業に対応できます。
また、開発支援の分野ではCodexのような機能もあり、コードの作成、修正、エラーの原因調査、簡単なアプリの試作などにも利用できます。
OpenAIはCodexを、コードベースに関する質問への回答、バグ修正、機能追加、プルリクエスト提案などを支援するソフトウェアエンジニアリングエージェントとして説明しています。
医療者であっても、簡単なツールや業務効率化の仕組みを試作する入口になり得ます。
Gemini

Geminiは、Googleが提供するAIツールです。
Googleアカウントを持っていれば始めやすく、Google検索、Gmail、Googleドキュメント、スプレッドシート、NotebookLM、AI Studioなど、Googleのサービス群との連携が特徴です。
日常的にGoogleのサービスを利用している方にとっては、導入しやすいAIツールです。
Geminiが向いている場面
- Googleアカウントで手軽にAIを試したい
- GmailやGoogleドキュメントとの連携を活用したい
- Google Workspace上の作業を効率化したい
- 資料作成や情報整理を行いたい
- Google系のAI開発環境を試したい
Geminiの強み
Geminiの強みは、Googleのサービス群とのつながりです。
Googleドキュメントやスプレッドシート、Gmailなどを日常的に使っている場合、文章作成、表の整理、情報収集、資料作成の流れの中でAIを活用しやすくなります。
また、NotebookLMとの連携・親和性は特筆すべき強みに挙げられます。
NotebookLMはアップロードした資料に基づいて要約や質問応答を行うツールであり、ハルシネーションが起こりにくい(生じないとは言い切れないことに注意)という特徴から、医療者・研究者にとっては、論文や資料を整理する場面で活用しやすい可能性があります。
Claude

Claudeは、Anthropicが提供するAIツールです。
長文の読み取り、自然な文章作成、複数の文書を踏まえた整理、コード支援などに強みがあります。
文章のトーンが比較的自然で、日本語での丁寧な文書作成や長い資料の整理に使いやすいと感じる利用者も多いツールです。
Claudeが向いている場面
- 長い文章や資料を整理する
- 自然な日本語・英語の文章を作る
- 複数の文書をもとに要点をまとめる
- 企画書や方針文書のたたき台を作る
- コードやアプリ開発の相談をする
Claudeの強み
Claudeの強みは、長文処理と文章の自然さです。
長い資料を読み込ませて要点を抽出したり、文章の構成を整えたりする場面で役立ちます。
また、Claude Codeのような開発支援ツールを使うことで、コードの作成・修正をAIに相談しながら進めることができます。
プログラミングに不慣れな医療者でも、簡単なツールを試作する入口として活用できます。
さらに、CoworkのようなPC上で動作するツールを活用すると、複数の文書をまとめて読み取り・整理・書き出しするといった、ファイルをまたいだ複雑な処理にも対応できます。
ただし、生成されたコードや実行結果は必ず人間が確認し、特に業務利用や医療情報を扱う場合には、所属機関の規程に従う必要があります。
目的別の使い分け
どのAIツールが最も優れているか、というよりも、目的に応じて使い分けることが大切です。
| 目的 | 試しやすいツール |
|---|---|
| まずAIを体験したい | ChatGPT、Gemini、Claude |
| 文章作成やメール文案 | ChatGPT、Claude |
| Googleサービスとの連携 | Gemini |
| 長文資料の整理 | Claude、ChatGPT、NotebookLM |
| 論文や資料をもとにした要約 | NotebookLM、ChatGPT、Claude |
| 出典を確認しながら情報収集 | NotebookLM、Perplexity、Deep Research系機能 |
| コード作成やアプリ試作 | ChatGPT / Codex、Claude Code、Gemini系開発ツール |
| 学会・研究会の準備 | ChatGPT、Claude、Gemini |
| 英文添削・国際会議準備 | ChatGPT、Claude、Gemini |
最初からすべてを使いこなす必要はありません。
まずは一つのツールで、日常的な文章作成や要約から試してみるのがよいと思います。
最初に試してみるプロンプト例
AIツールでは、入力する指示文のことを「プロンプト」と呼びます。
難しく考える必要はありません。
普段、人にお願いするように、目的と条件を具体的に伝えることで、AIツールも対応しやすくなります。
一方で、近年の大規模言語モデル、Large Language Models:LLM、の進歩により、厳密な指示を書かなくても、ある程度の意図をくみ取って回答してくれる場面も増えてきました。
まずは気軽に試し、その後で「もう少し短く」「表形式に」「医療者向けに」「初学者にもわかるように」などと追加で指示していくとよいでしょう。
文章を整える
以下の文章を、医療者向けの自然で丁寧な日本語に整えてください。
内容は大きく変えず、表現を読みやすくしてください。
(ご自身で作成した例文を挿入)
要約する
以下の文章を、重要な点がわかるように300字程度で要約してください。
最後に、実務上の示唆を3点挙げてください。
(ご自身で作成した長文を挿入)
論文内容を整理する
以下の論文内容を日本語で整理してください。
研究目的 方法 結果 限界 臨床的意義 に分けてください。
(論文のPDF、抄録、または論文ページのURLなどを挿入)
会議メモを整理する
以下の会議メモから、 議題 決定事項 未決事項 次回までの宿題 を整理してください。
(実際の会議記録を挿入)
英文メールを作る
以下の内容をもとに、海外の研究者に送る丁寧な英文メールを作成してください。
失礼にならないように、簡潔で自然な表現にしてください。
(ご自身で作成した英文または和文のメールを挿入)
AIを使うときの確認習慣
AIを安全に活用するためには、以下の確認習慣を持つことが重要です。
- 出力された論文やURLが実在するか確認する
- ガイドラインや制度情報は公式サイトで確認する
- 薬剤情報は添付文書や信頼できる情報源で確認する
- 患者説明に使う文章は、必ず医療者が内容を確認する
- AIの文章をそのまま使わず、自分の責任で修正する
- 不自然な表現や過度に断定的な表現を見直す
AIは便利ですが、最終的な判断者ではありません。
医療・研究・教育においては、AIの出力を人間が確認し、責任を持って利用することが前提になります。
おわりに
生成AIは、医療者や研究者の仕事をすべて置き換えるものではありません。
しかし、文章を整える、考えを整理する、情報を探す、資料をまとめる、作業のたたき台を作る、といった場面では、大きな助けになる可能性があります。
大切なのは、AIを過信しないことです。
あくまでツールであり、判断の主体は人間にあります。
患者さんの情報を守ること、出力を確認すること、一次情報に戻ること、そして最終的な判断を人間が担うこと。
これらを意識すれば、AIは医療・研究・教育・学会活動を支える有用な道具になり得ます。
AIUSでは、医療者・研究者がAIを安全にそして実践的に活用できるよう、今後も具体的な使い方や事例を紹介していきます。
- 本記事は、生成AIツールの一般的な利用開始方法と活用の考え方を紹介するものです。各サービスの機能、料金、利用上限、データの取り扱いは変更される可能性があります。最新情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。
- 患者情報、個人情報、機微情報を扱う場合には、所属機関の規程および関連法令・倫理指針に従ってください。



